睡眠の科学

深い睡眠はどれくらい必要か——数字が実際に意味するもの

睡眠トラッカーは毎朝、深い睡眠の数字を表示します。多くの人がいちばん気にするのがこの数字です。低ければ悪い夜、高ければ良い夜、というわけです。深い睡眠は体を回復させる段階ですから、そう考えるのも無理はありません。ただ、この数字は誤解されやすく、数字を追いかけること自体が、睡眠を悪くするよくある道筋のひとつでもあります。

深い睡眠とは何か、どれくらいあれば標準なのか、そしてスマートフォンに正直なところ何が分かるのかを見ていきます。

深い睡眠とは何か

深い睡眠は徐波睡眠、あるいはN3とも呼ばれ、脳の活動がゆるやかになり、大きく同期した波を描く段階です。もっとも目を覚ましにくい段階でもあります。深い睡眠中の人を揺さぶっても、はっきり目覚めるというより、ぼんやりと混乱するだけです。そしてこの段階で、体は組織の修復、成長ホルモンの分泌、免疫の働き、脳からの代謝老廃物の排出といった、身体的なメンテナンスの大半を行います。

REMとは別のものです。REM睡眠は夢を見る段階で、記憶の定着や感情の処理に関わっており、状態としてはずっと浅く、記録を見ると脳はほとんど覚醒時と変わりません。どちらも重要です。互いに代わりが利くものではなく、片方に偏ってもう片方が足りない夜は、良い夜とは言えません。

どれくらい必要か

健康な成人の場合、深い睡眠は総睡眠時間のおよそ13〜23%です。7時間半眠った夜なら、およそ60〜100分にあたります。5時間の夜なら、割合が同じでも実際の量は少なくなります。この数字について、まず押さえておきたいのはその点です。

ただし、読み取り方を左右する注意点が2つあります。

  • 加齢とともに減るのが普通です。深い睡眠は子どもの頃にピークを迎え、成人期を通じて着実に減っていきます。55歳の人が25歳の人より深い睡眠が少なくても、それは不調のしるしではありません。
  • この割合は、狙って達成できる目標ではありません。深い睡眠を決めているのは睡眠圧、つまりどれだけ長く起きていたか、どれだけ睡眠が足りていないかです。自分の意思で増やすことはできません。できるのは、体が深い睡眠をとれるだけの条件と時間を用意することだけです。

深い睡眠が夜の前半に偏る理由

深い睡眠は一晩に均等に散らばっているわけではありません。夜の前半に集中していて、最初の1〜2サイクルにもっとも大きなまとまりが現れます。夜が進むにつれて深い睡眠は減り、REMの時間は長くなります。アラームが鳴る直前の最後のサイクルでは、深い睡眠はほとんどなく、長いREMが続いている状態です。

ここから、多くの人が逆に理解している実際的な結論が出てきます。2時間遅く寝て、いつもと同じ時刻に起きたとき、すべての段階が一律に2時間ずつ減るわけではありません。削られるのは夜の終わりなので、偏って失われるのはREMのほうです。2時間早く起きた場合も、同じ理由でREMが減ります。深い睡眠は夜の早い時間にほぼ蓄えられている——だからこそ、短い夜でも深い睡眠の割合だけはそれなりの数字に見え、それでも体はひどく重い、ということが起こります。

つまり、深い睡眠を守るうえでは、休日に長く寝坊するよりも、就寝時刻を一定に保つほうが効果的だということです。

深い睡眠を確実に減らすもの

  • アルコール。寝つきは早くなることがあり、夜の前半の深い睡眠もさほど減りません。ただし後半の睡眠をひどく分断し、REMを抑え込みます。「8時間寝たのに体はぼろぼろ」という、典型的なあの夜です。
  • 遅い時間のカフェイン。カフェインの半減期はおよそ5時間なので、午後に飲んだコーヒーは真夜中にも無視できない量が残っています。問題なく寝つけた夜でも、深い睡眠は減ります。
  • 不規則な生活リズム。平日と週末で睡眠の時間帯が数時間ずれると、体内時計と、実際に布団に入っている時間帯とがかみ合わなくなります。
  • 暖かすぎる部屋。深い睡眠がまとまって現れるには、深部体温が下がる必要があります。寝室が暑すぎるとそれが妨げられます。実際によくある原因です。
  • 睡眠の分断。物音、隣で眠る相手、ペット、光るスマートフォン。目覚めかけるたびに眠りは浅い段階へ引き戻されますが、深い睡眠は途切れない時間が続いてはじめて深まります。

深い睡眠を増やすには

サプリメントやガジェットの出番はありません。深い睡眠を実際に動かすのは、どれも地味な要素です。一定の睡眠スケジュール(週末も含めて毎日同じ時刻に起きる)、序盤のサイクルだけで終わらせないための十分な総睡眠時間涼しく暗く静かな部屋就寝前にアルコールを入れないこと、そして日中に体を動かすこと。運動は、自分の意思でできることのなかでは、もっとも安定して徐波睡眠を増やしてくれます。

サイクルをひと通り確保するには何時に寝ればいいかを知りたいときは、睡眠計算ツールがアラームの時刻から逆算します。

トラッカーが示す深い睡眠の数字の正体

ここは大事な点ですが、たいていのアプリは説明してくれません。深い睡眠は脳の活動によって定義されるもので、脳の活動を測る方法は、頭に電極を付けること以外にありません。スマートフォンや腕時計にはその手段がありません。あるのは体の動き、それに機種によっては心拍数と音だけです。

これらの信号は睡眠段階とある程度相関するので、役に立つ推定はできます。深い睡眠中はほとんど動かず、サイクルの切れ目で寝返りを打ち、呼吸も変わるからです。とはいえ、それは推測であって測定ではありません。一般向けのトラッカーは、眠っているか起きているかの判別と総睡眠時間についてはおおむね得意ですが、睡眠を段階ごとに分けることになると、精度はかなり落ちます。

ですから、この数字はふさわしい使い方をしてください。判定ではなく、傾向として見ることです。1晩の深い睡眠の数値には、ほとんど意味がありません。2週間分を並べ、その夜に自分が実際に何をしていたかと突き合わせれば、アルコールや室温、就寝時刻の一定さについて、確かなことが見えてきます。1回の低い数値を診断のように受け取ると、睡眠そのものが不安の種になります。そして睡眠への不安は、眠りを悪くする最良の方法です。

自分の睡眠段階を、毎晩たしかめる

MathWakeは、スマートフォンの動きと周囲の音であなたの一晩を記録し、睡眠スコア、浅い睡眠と深い睡眠を示すヒプノグラム、そして数週間の傾向が分かるサマリータブを表示します。データはすべて端末内に留まり、睡眠トラッカーは無料です。

iPhone版MathWakeをダウンロード

よくある質問

深い睡眠は1時間で足りますか?

多くの成人にとっては足ります。標準的な範囲は総睡眠時間の13〜23%程度で、7時間半眠った夜ならおよそ60〜100分にあたります。1時間はその範囲に収まります。それより大切なのは、総睡眠時間そのものが足りているかどうかです。深い睡眠は夜全体に占める割合であって、決まった量のノルマではありません。

深い睡眠がこんなに少ないのはなぜですか?

よくある原因は、アルコール、暖かすぎる寝室、遅い時間のカフェイン、不規則な生活リズム、そして単純に総睡眠時間の不足です。年齢も関係します。深い睡眠は成人期を通じて自然に減っていくものです。トラッカーが1晩だけ低い数値を示したときは、結論を出す前に2週間分の傾向を確かめてください。

深い睡眠が多すぎることはありますか?

深い睡眠がふだんより多いのは、睡眠不足や病気、激しい運動のあとに体が取り戻している場合がほとんどで、問題というより健康な反応です。高い数値が続き、しかも日中に強い疲れが残るようなら、医師に相談する価値があります。

深い睡眠はREMの前と後、どちらに現れますか?

どのサイクルにも両方が現れますが、その比率は夜を通じて変わっていきます。深い睡眠は序盤のサイクルで大半を占め、夜が進むにつれて減っていきます。一方でREMの時間は、朝に近づくほど長くなります。だからこそ、アラームが鳴る直前はREMが中心になり、深い睡眠の大部分は最初の数時間で蓄えられるのです。